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耕作放棄地が止められない?!原因・問題・対策とは?

耕作放棄地

耕作放棄地」という言葉を聞いたことはあるでしょうか?

この記事では耕作放棄地の問題を取り上げ、まだ農地として使える土地を放棄しなけれればならない現実に目を向けてみました。

農地は農家の資産ですが、同時に大切な国の資産であることに気づいてもらえると嬉しく思います。

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耕作放棄地とは

耕作放棄地

日本では作付面積の削減を要求する減反政策が続いているため(2018年には廃止される予定)、耕作放棄地が増えて当然ではないかという疑問もあります。

ただし、減反は戦後アメリカの統治下にあった影響でおきた米の生産を抑制するための政策であって、戦後の日本の誤った農業政策でした。

事実、日本は減反政策と相反する戦後開拓も同時に行なっています。

現在では戦後ずっと続いてきた減反政策の反動から、耕作放棄地の拡大が止まらない状況ですし、食料自給率低下も深刻さを増しています。

耕作放棄地の定義

耕作放棄地とは統計上の用語のひとつで、「以前は耕地であったものが一年以上作物を栽培せず、この数年の間に再び耕作する予定がない土地」と定義されています。

一方、耕作放棄地と似た言葉に「遊休農地」があります。

遊休農地は農地法において、

  1. 現に耕作の目的に供されておらず、かつ、引き続き耕作の目的に供されないと見込まれる農地
  2. その農業上の利用の程度がその周辺の地域における農地の利用の程度に比し、著しく劣っていると認められる農地

と定義されています。

耕作放棄地と比べると、遊休農地の方が対象とする農地の範囲が広くなってますので、言葉として使う場合は遊休農地の方が適切な場面もあると思いますが、この記事では「耕作放棄地」を主に使っていきます。

耕作放棄地はなぜ生まれたの?その原因と背景とは?

耕作放棄地が生まれる原因について見てみると

  • 農業に従事する方の高齢化が進み、単純に労働力が見込めなくなってきていること
  • 中山間地域の農業では土地条件が悪いこと

が上位に食い込んでいます。

この2点は間違いなく耕作放棄地が生まれる原因だと思います。

ただ、もっと根本的なところにも原因を求めるべきで、たとえば当時としてはやむを得ないことだったとは言え、やはり減反政策に始まる誤った政策こそ、若者の農業離れを進める原因だったのではないでしょうか。

高齢化を耕作放棄地が生まれる原因と考えるのなら、農業を引き継いでくれる後継者がいないということです。

なぜなら多くの戦後生まれた日本人は、農業は(第一次産業全体も)儲からないキツイ仕事といったイメージを持って生活してきてきたからです。

ところがバブルが終結し、仕事は何をやってもキツイということがわかると、逆にこれまで敬遠してきた農業がまた違って感じられます。

若い世代の中には、小さな頃から家業の農業に誇りに感じて育った子どもいます。

その子たちの中には、大学の農学部を出て本格的に農業を始め、これまでとは違った形で農業が成功している例もあります(後述)。

全てではありませんが、今なら農家を継承できていることの方が幸せな方もいるでしょう。

何であれ、食に関わる産業を蔑ろにしてきた社会の間違ったイメージ作りこそが、耕作放棄地を生みだした根本的な原因や背景だったと思います。

ただし誤解して欲しくないのですが、戦後間もない頃のアメリカが悪かったというわけではありません。

マッカーサーが「私は米と魚、野菜の貧しい日本人の食卓を、パンと肉とミルクの豊かな食卓に変えるためにやってきた」と言ったり、GHQ公衆衛生福祉局長が「太平洋戦争はパン食民族と米食民族との対決であったが、結論はパン食民族が優秀だということだった」と言ったことも一因ではあったでしょう。

ただ誤ったイメージづくりを進めてしまったのは、私たち日本です。

耕作放棄地の面積と分布

では、実際に耕作放棄地はどのくらいあるのでしょうか?

以下に耕作放棄地の面積と分布を示してみます。

日本の耕作放棄地面積は解消も進んではいるのですが、依然として増加の一途をたどっています。

2010年農林業センサスでは39.6万haが全耕作放棄地面積と言われており、これは山梨県や滋賀県の面積に匹敵すると言われています。

また耕作放棄地の発生状況(分布)を示す指標には「耕作放棄地率」を用います。

耕作放棄地率の計算は、耕作放棄地面積÷(耕作放棄地面積+総農家の経営耕地面積)で計算します。

ここでは、2010年農林業センサスをもとに、耕作放棄地率の自治体別ワースト10とベスト10を示しておきます。

耕作放棄地率 ワースト10
順位都道府県名耕作放棄地率
1位長崎26.0%
2位山梨24.5%
3位広島23.3%
4位群馬21.1%
5位愛媛21.9%
6位山口20.7%
7位静岡20.4%
8位島根20.3%
9位奈良19.0%
10位岡山18.8%
耕作放棄地率 ベスト10
順位都道府県名耕作放棄地率
1位北海道1.8%
2位滋賀4.9%
3位富山5.7%
4位福井5.9%
5位秋田6.0%
6位新潟6.5%
7位山形7.7%
8位栃木7.9%
9位宮崎8.6%
10位宮城9.2%

耕作放棄地が抱える問題点とは

耕作地を放棄することは簡単ですが、身近なところに爪痕を残してしまうのが耕作放棄地の問題です。

また世界的に見ても食料自給率を上げることは、限りある農地の有効活用のためにも我が国の喫緊の課題と言えます。

ここでは耕作放棄地が引き起こす身近な環境問題や、世界で同時多発している農業生産や環境悪化例を列挙し、なぜ耕作放棄地の解消を進めなければいけないかを考えてみます。

耕作放棄地が引き起こす身近な問題

耕作放棄地に関連して、以下のような身近な問題がすでに起きています。

  • 病害虫の発生
  • 雑草の増加
  • 鳥獣による被害の増大
  • ゴミの不法投棄
  • 農地のその他機能の喪失(農地には水管理機能や土砂災害を防ぐ機能などが自然に備わっています)
  • 景観の悪化

中には増え続ける空き家問題と似た病害虫の発生やゴミの不法投棄も含まれています。

耕作放棄地は食糧の安定供給にも悪影響を及ぼす

耕作放棄地は、もう少しマクロになると食糧の安定供給にも悪影響を及ぼします。

ご存知の通り、日本の食料自給率は39%と非常に低く(カロリーベース)、主要先進国の中で最低水準です。

しかも環境問題の影響は世界的に出ており、日本の耕作放棄地の拡大は公共性を考えたなら、いますぐにも止めなければならないものです。

【世界の農業生産・環境の悪化例】

  • 世界では毎年日本の農地面積を上回る500万ha以上が砂漠化している
  • カザフスタン、ウズベキスタンのアラル海では、大規模な干害が発生し、河川流入量が大幅に減少したことで乾燥地に残った塩分が周辺農地に飛散し塩害が発生
  • 地下水が急速に枯渇した90年代のサウジアラビアでは小麦生産が412万トンから120万トンに減少
  • 中央アメリカのオガララ帯水層では、大規模な干害により平均地下水位が3.6m低下し、農業用水のくみ上げに影響が出ている

こうした地球規模の問題からみても、天候は世界的に見て日本は比較的安定しており、増え続ける耕作放棄地にストップをかけることが求められています。

これまでは安定して世界各国から食物が入っていましたが、それも少しずつ翳りが見えてきました。

従来とは違った取り組みが、日本の農業に求められています。

耕作放棄地への対策 3つの実例

耕作放棄地の解消には、国も様々な対策を講じています。

しかし地域に根ざした農業家が動かなければ何も変わりません。

そこで最後に、実際に農業家が動くことで耕作放棄地の解消に繋げた実例を3つ紹介します。

実例1)小松菜の大規模露地栽培で再生ビジネスを成功!

本取り組みは農業委員会や農協などの協力を得ることなく、農業従事者だけで耕作放棄地を再生させた例となります。

場所は埼玉県上尾市で、典型的な都市近郊農業地帯です。

相続で農地を引き継いでも農業を始める人が少ないため、従来から耕作放棄地問題が深刻化していました。

そこで農業生産法人を立ち上げて、農地所有者との間で、復元経費を請求しない代わりに一定期間は賃貸料を支払わない契約を結んでいるということです。

再生ビジネスモデルは借地式大規模農業経営です。

なお作物は小松菜。

加工冷凍用特別栽培小松菜として埼玉県学校給食会へ出荷するほか、首都圏以外にも出荷しているようです。

耕作放棄地の復旧には1年以上かかる

耕作放棄地は自己所有の機械とリース機械を使って復旧。

復旧後は堆肥を投与し、1年以上は牧草植栽により土壌改良を進めたそうです。

そして2年目から小松菜の大規模露地栽培を実施しました。

耕作放棄地の復旧で苦心した点は、表層に含まれる雑草種子や根など耕作の障害となるものを、下層の土と入れ替えて優良農地に再生させています。

おかげで平成21年3月現在での耕作放棄地解消面積は、42.0haとなっています。

課題は農繁期の労働力不足

課題には農繁期の労働力不足をあげていますが、そこはパート雇用で何とかなっているようです。

代表者は親の後を継いで農業を行っていますが、法人化も早く、平成15年には株式会社化し、社員9名・パート130名なので、事業規模はかなり大きい方だと言えます。

社長は耕作放棄地をビジネスチャンスと捉えることで再生ビジネスを成功させました。

農業もやり方次第では、十分夢を描けることを証明しています。

事例2)イノシシ、サル、シカなど野獣が住む村の再生に使われたエゴマ

「獣害に強く、かつて郷土食として親しまれていたエゴマを町の特産に」をテーマに耕作放棄地解消に取り組んでいるのは、愛知県設楽町の地元農家によるエゴマ研究会です。

愛知県設楽町はイノシシ、サル、シカ等の野生獣による農作物被害が深刻で、こうした被害が原因となって農業者の生産意欲は低下、耕作放棄地の増加が以前から懸念されていました。

そこで平成19年5月に町内の農家35人が「エゴマ研究会」を設立したのをきっかけに、町をあげて栽培の勉強会を開くなど、エゴマ増産に取り組んだ結果、平成20年6月現在で1.5haの耕作放棄地解消に成功しています。

エゴマという地味な商品でも耕作放棄地解消はできると証明した

本取り組みも町や県の普及員以外は、ほぼ100%が「エゴマ研究会」、つまり農家です。

生産したエゴマはドレッシングとして販売するほか、「アグリステーションなぐら」内での飲食店での使用や物産展での販売をしています。

販売額は10haあたり最大約15万円なので決して金額としては大きくありませんが、町の耕作放棄地を解消していることは非常に意味のある取り組みです。

課題としては販路拡大、エゴマの栽培技術の高位平準化、収穫後の選別調整作業の機械による均一化を掲げており、さらなる事業成長を見込んでいるようです。

もともとエゴマ栽培の歴史は古くからありましたが、自家用として使っていただけでした。

それが獣害に強いエゴマの特徴を生かし、耕作放棄地解消にもつなげたのは素晴らしい取り組みです。

地味な作物ですが、今後も大いに期待したいところです。

事例3)赤そばの作付けで蘇った棚田の町

棚田は労力がかかり、高齢化が進む農家では耕作放棄地を生みやすいと言われています。

岡山県美咲町もまさにそのような山間部の高齢化が進んだ農地でしたが、農業者以外にも協力者得て、農地・水路・農道等の保全活動を進め、耕作放棄地の再生利用の取り組みも強化されることになりました。

地域ぐるみの再生が町を盛り上げた

美咲町は棚田見学の訪問者に美しい景観を楽しんでもらうため、耕作放棄地に赤そば「高峰ルビー」を作付けしたところ、写真家や多くの見学者が訪れるようになったと言います。

その冬から「紅そば亭」の営業が始まり、5年後の平成20年には年間12,000人が訪れるまでになり、農地等の保全活動や、耕作放棄地の発生防止とその再生利用が地域ぐるみで実施されています。

また平成21年3月時点での耕作放棄地解消面積はトータルで8haに達しており、棚田のハンディをものともせず奮闘しています。

なお美咲町では祭りが復活し、獅子舞・宮棒の伝承等伝統文化の継承も見直され、景観の保全にも気を配るようになりました。

平成19年4月からは、老人会やPTAといった非農業者が参加し、農地・水・環境保全向上対策を実施しています。

耕作放棄地を手放す勇気も必要

ここまで耕作放棄地の解消・再生についてお伝えしてきました。

ただ相続税の改正により、収益を生まない農地はリスクとなったことも事実です。

また病害虫の発生やゴミの不法投棄など、耕作放棄地が引き起こす身近な問題もお伝えしてきました。

つまり耕作放棄地や遊休農地をお持ちの方で、どうにも継承者や再生ビジネスを見つけ出せないという場合には「土地を手放す」という決断もまた重要となってきます。

耕作放棄地 まとめ

国は本当に耕作放棄地の解消に心を砕いています。

それだけ耕作放棄地の問題は深刻なのです。

また農業委員会の行う農地の転用規制が厳しいのも、農業できる土地を安易に用途変更できないようにするために行なっていることが分かります。

農業や農地に関わることが少ない方であっても、農産物は私たちの生活から切り離される問題ではありません。

この記事をきっかけに、農業や耕作放棄地に関心を深めてもらえれば幸いです。


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