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コンパクトシティとは?3都市の事例からみるメリットと問題点

コンパクトシティとは

むかし、社会科の授業でドーナツ化現象という言葉を習った覚えがあるかと思います。

ドーナツ化現象は中心市街地の人口が減り、代わりに郊外の人口が増加する現象を言い表したもの。

このドーナツ化現象とは逆に、中心市街地に利便性を与え、郊外に向かう市民の流れを変えようとする動きをコンパクトシティ(化)と呼んでいます。

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コンパクトシティとは

コンパクトシティとは

考えてみれば、多くの地方都市が高度成長期に始まるドーナツ化現象を経験していますし、地方都市でよく見かける、市街地に連なるシャッター街も典型的なドーナツ化現象です。

このように便利であるはずの都市部が不便になることは放置できませんが、気づけば郊外化の流れは誰にも止められなくなっています。

ついには進みすぎた郊外化に歯止めをかけるために行政も動き出しました。

コンパクトシティとは都市計画の手法のひとつで、都市の機能をコンパクトにまとめ、不便になった市街地を再構築する試みです。

郊外化は人口が増加する社会が前提で行われてきましたが、今の日本は成熟期に向かい、トータルで見ても人口は減少の一途を辿り始めています。

人口減の社会になっているのに、郊外化を良しとする社会の仕組みに誰も歯止めを掛けないと、財政上も無駄な負担を増やすことに繋がってしまいます。

コンパクトシティは、ある意味でこれまでの生活を改めようとする動きなので、非常に面倒なものと思いがちですが、時間をかけて市街地の利便性を高めていくことがコンパクトシティに繋がっていきますので、実は市民にとってとても快適で望ましいことなのです。

ただ、進め方を間違うとさらなる無駄を生んでしまいます。

この記事では各地で行われているコンパクトシティの事例を参考にしながら、コンパクトシティのメリットや課題についてお伝えしていきます。

コンパクトシティが目指すものと、そのメリットとは?

コンパクトシティが目指すもの、またそのメリットとは何でしょうか。

以下に詳しくご紹介していきます。

超低床式の路面電車やバスを中心とした「新型」の公共交通が移動手段を支えている

コンパクトシティの構想は各地で起こっていますが、何に一番注目が及んでいるのかと言えば、意外かもしれませんが公共交通の種類とその充実度です。

コンパクトシティは、大部分の移動手段を超低床式の路面電車やバスを中心とした新型の公共交通に支えられています。

特に路面電車は乗り心地の良さ、時間の正確さに優れており、利用者には自動車からの転換組もいると言われています。

路面電車はフランスで再び見直され、世界的にも注目されています。

スペインやオーストラリアのトラム(Tram)など、海外旅行の際などに乗ったことがあるという方もいらっしゃるかと思います。

日本では、富山市がむかしから路面電車を走らせてきた町として知られていますが、その富山市が国内初の次世代型路面電車であるLRT(Light Rail Transit)を走らせたことは有名です。

まだ課題はありますが、市街地の移動がしやすく交通弱者にも優しい交通手段となっていることは、間違いなくコンパクトシティのメリットに数えられます。

コンパクトシティは行政の危機を避けるために考えられた取り組みのひとつ

コンパクトシティの根本にあるのが「歩いて暮らせるまちづくり」ですが、これは、拡散しすぎた街中の機能をもう少し集約させようする考えから来ています。

もっと分かりやすく言えば、コンパクトシティ化は、現実味を帯びてきた人口減少を見据え、財政を省コスト化することも視野に入っています。

つまり、住む地域をできるだけ都市部に狭められたら、上下水道や道路などのインフラをこれ以上拡大せずに済みます。

コンパクトシティには財政上の命題も含まれているのです。

コンパクトシティとは、確かにそれを言い表す大義名分もありますが、いちばんには、このままでは自治体の行政が危機に瀕することになるのを何としても食い止めようと考えられたものです。

コンパクトシティなら通勤・移動時間が短縮される

全ての人に該当することではありませんが、コンパクトシティなら通勤時間や移動時間が短縮されるため、それが間接的に様々なメリットに繋がります。

例えば、仕事と生活のバランス改善や趣味やレクリエーション活動の機会の増加などが考えられます。

就業機会が増えやすくなる

都市部のコンパクトシティ化が進むことで、中心地にできる医療・福祉関連の施設や商業施設から求人募集がおき、就業機会が与えられやすくなります。

もちろん、高齢者にも就業機会のチャンスが広がります。

環境負荷の低減がもたらされる

コンパクトシティ化が進展すれば、公共交通の利用機会が増え、代わりに車依存も減少します。

多くの市民が公共交通を利用することによって、環境負荷の低減も考えられます。

コンパクトシティの問題点やデメリット

次に、コンパクトシティを進めていく上で問題やデメリットとなることを中心にお伝えしていきます。

郊外化が進みすぎている場合はコンパクトシティの形成に時間がかかる

コンパクトシティは一夜にして実現するものではなく、その形成には年単位で時間がかかります。

全国に先駆けてコンパクトシティへと舵を切った富山市でも、取り組みを始めたのは2002年のこと。

富山市は決して失敗している事例ではありませんが、これでもまだ道半ばで結果は出ていません。

富山市でもそうなのですから、後発組は推して知るべしです。

特に郊外化が進みすぎている場合は、コンパクトシティの形成には余計に時間がかかることになります。

まだ着手できていない自治体は、計画だけでも進めておくべきではないでしょうか。

交通インフラ網の整備に着手していない場合は失敗するケースが多い

公共交通の整備は、コンパクトシティに欠かせないものですが、公共交通やそのインフラ網の整備に着手しないことには、たとえどんなに素晴らしい施設を作ってもその良さは生きてはこないでしょう。

特に公共交通が弱い地方都市では、当然この問題に向き合わなくてはなりません。

よく言われるのは、交通網よりまず人々を惹きつける商業施設が先だとする考えがありますが、今はそれが難しい時代です。

そもそも、新たに人を集められる商業施設があったとしても、私たちはそれを待ち望んではいないのだとも言えます。

商業施設より、まず公共交通を整備し、市街地へのアクセスをストレスなく使えるほうが、どれだけ価値があるかわかりません。

そこには今も魅力的な古い店だってあるのです。

インフラ網の整備としては、LRTのほかにも、バスを使ったBRT(Bus Rapid Transit)もあります(新潟の「萬代橋ライン」などが有名)が、従来型のバスを用いながらインフラ整備を進めることもできます。

もちろん地方では、バスを増便しても赤字を続けるだけかもしれません。

ただし、いつまでもそこから抜け出せないようなら、市街地が低密度化し続ける負のサイクルからはこの先も抜け出せません。

安易な商業施設の増設は負の遺産となる

青森市のアウガや、岡山市のアルネ津山は、コンパクトシティの施策ではないと言う意見もあります。

ただ郊外化が進んだ市の中心街の活性化を目指して商業施設を建てたと言うのであれば、やはりコンパクトシティを強く志向したものであったはずです。

コンパクトシティに商業施設も必要でしょうが、もっと必要度の高いものがあります。

それは教育や研究を進める施設や、医療・福祉関連の施設です。

特に医療・福祉関連施設は実際に利用する機会が増えていきますし、付加価値の高い仕事に就ける機会を市民に与えるからです。

作っても無駄になることはなく、今後も利用され続けていくことが考えられます。

一方、商業施設の場合はそう簡単には行きません。

まず商業施設は作ったら黒字化を目指さなくてはなりません。

そのため最低限、人を確実に集められるレベルのブランドや注目店舗を揃える必要がありますし、そのラインナップを永続的に見直さなければなりません。

それなのに失敗する商業施設は、今ではブランド力に乏しいショップや地元資本の店舗を集約しただけの魅力のない構成でお茶を濁すようなことを平気でしています。

これで人の流れを変えられるのなら良いのですが、商売はそれほど甘くはありません。

赤字が続くとハコモノは無用の長物となってしまいます。

本気でコンパクトシティを目指すなら、公共交通を充実させる方が先決で、施設についてもいたずらに商業施設を増設するぐらいなら、医療・福祉関連を中心に進めていくのが順序としては正しいやり方と言えるのではないでしょうか。

駅前などの中心街を生活圏にできる方は限られる

コンパクトシティが考える生活圏で言えば、中心街に生活圏を据える方はある程度限られてきます。

たとえば大企業がない地方都市では、夫婦とも公務員や医療職従事者という場合も多いです。

こうした夫婦の場合は転勤の可能性も低いため、比較的静かで利便性がある中間地域にすでに持ち家があり、もはや動かないことが考えられます。

そうなると、駅前などの中心街を生活圏に暮らせるのは長期の住宅ローンが組める若者ということになり、コンパクトシティで一番に恩恵を受けなければならない高齢者全般ではなくなってしまいます。

しかし、衰退していく中心街を新たに生活の場として選ぼうとする若者がいると言うことは、コンパクトシティにとって決してマイナスではありません。

自治体によっては、コンパクトシティの絵をすでに描けないところもあるからです。

コンパクトシティの事例

最後にコンパクトシティの事例を三つ挙げておきます。

まずは、この記事中ですでに紹介している富山市の事例から。

事例1:郊外化の流れを食い止めようと取り組んだ「富山ライトレール」の成功

富山市はすでに1980年代には有力な郊外型店舗が出店してきており、駅前はおろか、中央通りや総曲輪通りといった地元の有名な商店街もかつての賑わいや活気を失いつつありました。

そうした中、郊外化の流れを食い止めなければ、財政を圧迫するとの懸念から、富山港線から新しい路面電車(富山ライトレール)への変更を決定したのが2006年のこと。

この富山ライトレールが国内初の次世代型路面電車LRTとなり、以来、コンパクトシティを目指そうと考える各自治体から富山市は注目を集めています。

富山市の発表では、富山ライトレールの利用者の約11%が車から乗り換えをした人だということです。

このことからも富山の新しい路面電車は、まずまずの成功を収めていると考えられます。

ただしLRTの導入で人の流れが変わり、中心街では一定の経済効果が見られてはきていますが、前出の中央通りなど、LRTの導入の恩恵をまだ預かっていないエリアも存在します。

富山市では、あと数年後先にLRTの相互乗り入れ(富山ライトレールと環状線)を予定していますので、それが現実になればもっと多くの人が「LRTを導入して良かった」と言える時が来るのではないでしょうか。

なお、富山市では富山ライトレールのほかにも、コンパクトシティを目指す取り組みが適宜行われており、ただならぬ市の情熱は非常に参考になります。

例えば、富山地方鉄道市内軌道に環状線(LRT)を新設したこと、住宅取得費や賃貸住宅の家賃の補助を行うことで市街地の人口を増加させることに成功させた「まちなか居住推進事業」などは、真面目な県民性を反映しています。

事例2:青森アウガの崩壊はフタを開ける前にすでに分かっていた?

青森市は、JRの青森駅と直結するように市街地のメインストリートである新町商店街が伸びています。

その新町通りの入り口付近に、日本初のコンパクトシティ実現に向けて2001年に商業ビル「フェスティバルシティ・アウガ」が開業しました。

ただ、キーテナントを西武百貨店に設定していたのですが、バブル崩壊の影響が重くのしかかり、結局アウガ開業前に撤退するなど、当初から出店計画チームに不穏な空気が流れていたと言います。

そして開業後も計画の半分ほどしか売り上げが達成できず、2015年には外部の専門家から再生策を立案してもらい、結局撤退を決定。

現在は閉店セールを続けていますが、地階の市場は残すも4階までのショッピングフロアを閉鎖し、公共施設としての再生を行う方針を昨年打ち出したばかりです。

アウガは、キーテナントの撤退によって計画段階で白紙に戻すことも考えらえていたのですが、地階に入る予定の市場は店を解体し仮店舗で営業しており、どうしても白紙には戻せない状況だったようです。

ただ、当初より計画立案の甘さがあったことは否定できません。

莫大な予算を掛けなくても、新町にはまだ魅力的な店舗が残っていました。

立ち寄ってみたくなる町づくりを地道に続けることで、今頃はもっと違った風景が見えていたかもしれないのです。

青森県には、近場にも五所川原市の「エルムの街」という強力な郊外型ショッピングセンターが控えており、そう簡単にはお客を引き戻せないのではないでしょうか。

商業ビル アウガの失敗から、市街地の活性化に必要なものは何かを考えさせられます。

事例3:TX駅 柏の葉キャンパス周辺にみる次世代型コンパクトシティ

千葉県にある柏市は、これまで取り上げてきた北陸富山とも東北最北の青森とは違い、都心のベッドタウンとして発展を続けています。

ここでは柏市といっても北部地域に当たる、柏の葉キャンパス駅を中心としたコンパクトシティについてご紹介します。

柏の葉キャンパス駅は、2005年に開業したつくばエクスプレス(TX)のほぼ中間に位置し、街自体も非常に新しく綺麗です。

これまでの街は高度成長期に始まる郊外化を経験しており、それが歪な発展を抱えていました。

一方、柏の葉キャンパス駅周辺は、次世代型環境都市づくりに適した環境がすでにあり、駅前に行くとあらゆる都市機能がコンパクトに集約されています。

つまりコンパクトシティに向けて本来備えておかなければならない都市機能(銀行、病院、商業施設、オフィス、分譲・賃貸住宅など)がほとんど揃っている状況なのです。

まず通勤の交通機関には、首都圏新都市鉄道つくばエクスプレス(TX)を主に使います。

秋葉原までは30分前後で到着しますので、都内の主要駅には約1時間あれば到着できます。

これで通勤のストレスからも少しは開放されるはずです。

もちろんそれだけではありません。

駅周辺には東京大学柏キャンパスや千葉大学柏の葉キャンパスがあり、公共・民間・大学が連携し、次世代環境都市を目指した都市づくりが進んでいます。

暮らしの利便性に加えて、省エネ・省コスト性を追求できるのが新しいコンパクトシティには求められています。

TX柏の葉キャンパス駅周辺では、スマートシティ化を見据えた暮らしも計画されています。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

コンパクトシティを実現していくためには、LRTやBRTなどの公共交通を充実させることが、重要なカギになることがお分かりいただけたのではないでしょうか。

逆に市街地に活気を呼ぶには、新たな商業施設を建設することも決して間違いだとは言い切れませんが、それほど優先順位が高いものではないということです。

あなたの近隣都市で起きているコンパクトシティの取り組みを、あなた自身で評価してみるのも興味深いことではないでしょうか。


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