消費税増税による不動産売却への影響

2019年10月1日に消費税が10%に引き上げへ。

2015年、2017年と2度に渡って増税は延期されてきましたが、今回はとうとう実施される見通しです。

そこで不動産の売却や住み替えを考えている方のために、増税の影響を最小限に抑えるべく知っておきたい情報や制度をまとめました。

スポンサーリンク


消費税が10%になると、不動産売買ではいくら損するの?

不動産売買では「売主」と「買主」の立場があり、それぞれの立場によって増税の影響度合いは大きく異なります。

結論からお伝えすると、不動産をただ売るだけの「売主」なら増税の影響は大きくありません。

しかし不動産を売って住み替えを検討している場合、つまり「買主」にもなる場合には、増税の影響は大きなものがあります。

まずはそれぞれの立場による違いを見ていきます。

売主に影響するのは不動産仲介手数料

まず不動産を売却する「売主」の立場で増税の影響があるのは「不動産仲介手数料」にかかる消費税です。

不動産仲介手数料とは、買主を見つけ、売買を成立させてくれた不動産屋に支払う手数料です。

個人間で不動産を売買する場合は不要なものですが、一般的には不動産屋を介して不動産売買をすることがほとんどなので、多くの売主に関係します。

支払う不動産仲介手数料は「売買価格の3%+6万円に消費税」です。

つまり、たとえば家が3000万円で売れた場合は以下の通りになります。

消費税不動産仲介手数料差額
8%の場合103万6800円1万9200円
10%の場合105万6000円

消費税が8%から10%に引き上げられた場合、その差額は約2万円。

決して少額ではありませんが、何千万円という大金が動く不動産売買の全体から見ると、影響は小さいと言えます。

その他、状況に応じて「抵当権抹消費用」「住宅ローンの繰り上げ返済にかかる手数料」「測量代」が売却時に必要となり、それぞれに消費税がかかりますが、数千円内の影響でとどまります。

買主に影響するのは不動産仲介手数料と購入代金

次に不動産を購入する「買主」の立場で増税の影響があるのは「不動産仲介手数料」と「購入代金」にかかる消費税です。

不動産仲介手数料

売主を見つけ、売買を成立させてくれた不動産屋に支払う「不動産仲介手数料」については上述と同様です。

消費税が8%から10%に引き上げられた場合、その差額は約2万円。

決して少額ではありませんが、何千万円という大金が動く不動産売買の全体から見ると、影響は小さいと言えます。

購入代金

むしろ買主の立場で増税の大きな影響を受けるのは、購入代金にかかる消費税です。

なお

  • 土地は非課税
  • 建物は課税

なので、建物だけに着目していきます。

建物代消費税8%消費税10%差額
1000万円80万円100万円20万円
2000万円160万円200万円40万円
3000万円240万円300万円60万円

表のように、消費税がたった2%引き上げられるだけで、その差額は何十万円にもなってしまいます。

また家を購入する場合、増税の影響を受けるのは建物代だけではありません。

  • 引っ越し代
  • 買い替える家具代
  • 住宅ローン手数料
  • 住宅ローン保証料
  • 火災保険料
  • 団体信用生命保険料
  • リフォーム代

など様々な費用に消費税は関係してくるので、それぞれは少額でも、合算すると万単位での影響が出てきます。

売主は、買主の購買心理への影響を考える必要がある

以上のように、売主の立場ではさほど増税の影響はありませんが、買主の立場では大きな影響を受けます。

そのため不動産の売却を検討している売主は「買主の購買心理への影響」を踏まえておかないと、売るタイミングを逃してしまう恐れもあります。

たとえば新築物件や最近人気のリノベーション物件を扱っている不動産屋は増税前になんとか売ろうとしてくるはずなので、その影響を受けて、増税後に不動産市場そのものが冷えてしまう、そして中古物件もつられて売れにくくなってしまうことが考えられます。

消費税が増税することで、不動産市場に大きな波が訪れるかもしれないので、世の中の流れに従って、増税前に売ることが大きなポイントになると言えます。

一方、消費税の増税後に不動産市場が冷え込まないよう、政府も「経過措置」と「減税措置」という優遇措置を考えていますので、これらの動向も見逃せません。

住み替えをしたい場合、いつまでに家を購入すると損しない?

まずは「経過措置」についてお伝えします。

実は、経過措置の時期は、住宅を購入するタイミング(契約や引き渡し)によって消費税率が変わります。

家の「引き渡し時」の消費税率が適用される

消費税は商品を受け取る際に課税されるのが原則。

そのため新居を購入する場合、家の「引き渡し」時点での消費税率が適用されます。

今回の場合なら

  • 増税施行前の2019年9月30日以前だと8%
  • 増税施行後の2019年10月1日以降だと10%

となります。

注文住宅や中古住宅をリフォームする場合は「経過措置」が適用される

ただし新居購入と一口に言っても、注文住宅を建てたり、中古住宅購入してリフォームしたりする場合は、引き渡しが2019年10月1日を過ぎても、消費税8%が適用されるケースがあります。

それは「消費税増税施行日の半年前の指定日(2019年4月1日)の前日である、2019年3月31日までに工事請負契約を完了していた場合」です。

家を建てたり、リフォームしたりする場合は、完成までに数ヶ月かかることも珍しくありません。

建築資材や塗料が不足して、工事が遅れることもあるでしょう。

そこで消費税増税による不利益を回避するために、特別に「経過措置」が適用されるのです。

なおマンションや建売分譲住宅等の売買契約でも、注文者が壁の色やドアの形状等について特別の注文を付すことができることとなっている場合には、同様の経過措置が適用されます。

参考:すまい給付金「消費税率引上げに伴う住宅に関する経過措置」

消費税10%増税前に知っておきたい4つの減税措置

次に「減税措置」について紹介します。

今、検討されている減税措置としては次の4つがあります。

  1. 「住宅エコポイント」の復活
  2. 「住宅ローン減税」の拡充
  3. 「すまい給付金」の拡大
  4. 「贈与税の非課税枠」の拡充

1)住宅エコポイントとは

住宅エコポイントとは、一定の省エネ性能を有する住宅の新築やエコリフォームに対してもらえるポイントです。

省エネ住宅ポイント制度で発行されるポイントで、様々な商品と交換できます。

住宅エコポイントは、2009年以降、経済対策として3回実施されています。

当時は1ポイント1円相当として追加の住宅工事に使える他、商品券、プリペイドカードなどと交換できる仕組みでした。

国土交通省と財務省は前回同様の制度を復活させる方向で、現在はポイントの発行条件や規模などを詰めています(対策が固まったため、下記にまとめます)。

次世代住宅ポイント制度

増税後に省エネ住宅などを購入・改修した人にポイントが付与される「次世代住宅ポイント制度」に1300億円が計上されることになりました。

前回と比べ、ポイント付与の対象も広がりました。

新築の場合

  • エコ住宅(省エネ性能の高い住宅)
  • 長持ち住宅(耐久性等の高い住宅)
  • 耐震住宅
  • バリアフリー住宅

に対しては、一戸あたり上限35万ポイント(35万円相当)が付与されます。

改修の場合

  • エコリフォーム
  • 耐震改修
  • バリアフリー改修
  • 家事負担軽減につながる設備の設置

に対しては、一戸あたり上限30万ポイント(30万円相当)が付与されます。

なお「家事負担軽減につながる設備」の設置ですが、

  • ビルトイン型食洗機
  • 宅配ボックス
  • 浴室乾燥機

なども対象となります。

このポイントはエコ家電などと交換できます

2)住宅ローン減税とは

居住の用に供した年控除期間各年の控除額の計算
(控除限度額)
平成24年1月1日から
平成24年12月31日まで
10年年末残高等×1%
(30万円)
平成25年1月1日から
平成25年12月31日まで
10年年末残高等×1%
(20万円)
平成26年1月1日から
平成33年12月31日まで
10年年末残高等×1%
(40万円)

消費税の増税に伴い拡充されてきたのが、住宅ローン減税です。

入居した年の年度末の確定申告の際に「住宅借入金等特別控除」つまり「住宅ローン控除」の申請を行うと、所得税や住民税が減税される制度です。

平成26年4月に安倍首相が消費税が8%に引き上げた際には、年間で最大40万円、10年間で最大400万円の所得税が減税される内容へと拡充されました。

今回の10%の消費税増税に対応した住宅ローン減税の内容は、12月頃までに発表される予定です(発表されたので、下記にまとめます)。

住宅ローン減税の控除期間が13年間に延長

2019年10月1日から2020年12月末までに入居する住宅に限り、住宅ローン減税の控除期間が13年間へと、3年延長されることになりました。

当初の10年間は現在と同じ仕組みですが、

11年目以降の3年間は、毎年、

  • 建物購入価格(最大4000万円)の2%を3等分した額
  • 年末の住宅ローン残高の1%分の額(最大40万円)

とを比べ、少ない方の額が所得税や住民税から控除されます

【例】

3000万円で新居を購入し、11年目の住宅ローン残高が1000万円の場合

建物購入価格の2%を3等分した額3000万円 × 2% ÷ 3 = 20万円
年末の住宅ローン残高の1%分の額1000万円 × 1% = 10万円

少ない方である10万円分だけ所得税や住民税が控除されます。

3)すまい給付金とは

すまい給付金とは、消費税率引上げによる住宅購入者の負担を緩和するため、国から現金が給付される制度です。

前述の住宅ローン減税は、支払っている所得税等から控除される仕組みなので、収入が低いほど、住宅ローン減税の効果は小さくなります。

そこで、すまい給付金制度では、住宅ローン減税の効果が十分に及ばない、収入が一定以下の層に対して現金を給付することで、住宅ローン減税と併せて増税による負担の軽減を図ります。

このため収入によって給付額が変わる仕組みとなっています。

公式サイトには、もらえる給付金額が計算できるシミュレーションページもありますが、以下が目安となります。

消費税率8%時は収入額の目安が510万円以下の方を対象に最大30万円、10%時は収入額の目安が775万円以下の方を対象に最大50万円を給付するものです。

引用:国土交通省「すまい給付金」

給付金を受け取るためには、所定の申請手続きが必要です。

すまい給付金制度は2021年12月までの制度で、2021年12月までに入居が完了しないと給付金は貰えません。

ただ

消費税率8%時は収入額の目安が510万円以下の方を対象に最大30万円、10%時は収入額の目安が775万円以下の方を対象に最大50万円

とあるように、収入が一定以上を超えてる場合、消費税が10%になってから購入した方がお得なこともあります。

4)贈与税の非課税枠とは

家や土地を購入する際、両親や祖父母から頭金を出してもらうケースもあります。

実は「住宅取得のため」の両親や祖父母からの資金の贈与は、一定の要件を満たす場合、一定額まで贈与税が非課税になる特例制度があります。

消費税が8%の場合の非課税限度額
契約日省エネ等住宅左記以外の住宅
2016年1月1日~2020年3月31日1200万円700万円
2020年4月1日~2021年3月31日1000万円500万円
2021年4月1日~2021年12月31日800万円300万円

 

消費税が10%の場合の非課税限度額
契約日省エネ等住宅左記以外の住宅
2019年1月1日~2020年3月31日3000万円2500万円
2020年4月1日~2021年3月31日1500万円1000万円
2021年4月1日~2021年12月31日1200万円700万円

表をご覧いただくと分かるように、非課税限度額が大幅に拡充されることが分かります。

また1年間にもらった財産の合計額が基礎控除額の110万円以内であれば、贈与税はそもそもかかりません(暦年課税の場合)。

つまり消費税8%の住宅を購入した場合は最大1200万円に基礎控除110万円を足した1310万円まで、消費税10%の住宅を購入した場合は最大3000万円に基礎控除110万円を足した3110万円まで、贈与税がゼロになるのです。

ただし、この特例を受けるために注意したいのは、「贈与の翌年の3月15日までに住宅の引き渡しを受け、遅滞なく居住しなくてはならない」点です。

たとえば建物の完成・引き渡し時期が2019年の3月15日より先の物件の場合、2018年中に契約し、契約時に支払う手付金を親からもらってしまうと、非課税枠を利用できません。

このような事態が発生しそうな物件の場合は、契約時ではなく、引き渡し時(残金決済時)に贈与を受けることを検討すべきです。

非課税の特例の適用を受けるためには、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に税務署で手続きをする必要があります。

なお、ここでの「省エネ等住宅」とは

  • 断熱等性能等級4または一次エネルギー消費量等級4以上
  • 耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)2以上または免震建築物
  • 高齢者等配慮対策等級3以上

のいずれかを満たす住宅を指します。

参考:国税庁「直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税」

消費税増税の影響を最小限に抑えるための不動産売買

消費税額だけを比較すれば、不動産の売却も購入も、増税前のタイミングの方がお得なのは明らかです。

特に住宅購入の場合は、取引価格が大きいだけに、非常に大きな影響があります。

ただし増税前の「駆け込み需要」による混乱も予測されます。

実際2014年に消費税が3%から5%に引き上げられた際も、駆け込み需要の影響で、建築業界全体が深刻な職人不足や資材不足に陥りました。

今回も同様の混乱が予測され、特に住み替えの場合は、新居の完成・引き渡しに影響を及ぼさないとも限りません。

消費税の増税は不動産売買のタイミングを決める重要な判断材料の1つではありますが、将来のライフプランを家族とよく話し合い、「あなたの」ベストなタイミングで取引することの方がより大切です。

ぜひ情報収拾だけは早めに行い、計画的に不動産の売却や購入を進めてください。

家を高く売るための3つの技→

 

スポンサーリンク